消えない呪いを抱えて歩け
書こうとしていた話があった。
記そうとしていた記録があった。
綴る筈の感想があった。
全てにおいて、時間が足りない。
仕事を辞め、土地を移り、人間関係を清算した。
それら諸々に伴う作業を終えた3月。
今年の四半を過ぎた時点で、僕は既にリソースの殆どを使ってしまっていた。
アウトプットにはとにかく労力が必要だ。
殆ど底をついたリソースを抱え、感染症の脅威に晒され、今まで頼っていたコンテンツから離れたことで精神をチューニングする手段も確立出来なくなった。
週5日、普通の人間の顔をして生活することだけで精一杯。
そんな一年だった。
故に、何も書けていない。
何もできていない。
仕事を変えたらやろうと思っていた殆どのことは、停滞したまま境界線まで来てしまった。
ただ、今年ひとつも記事を書かなかったというのは何となく気持ちが悪い。
だから、手短に言伝を書こう。
来年の自分へ、こちら側の僕から、言伝を。
♢ ♢ ♢
SNSを始める時、決めていたことがあった。
尊敬しているキャストのしているように、前向きで善良な言葉だけを使うように心がけよう、というものだ。
極力言葉遣いに気を使い、誰に対しても丁寧に接しようとした。
自分の中にある微かな善性を切り出した人格として、SNSを運用した訳だ。
結論から言うと、これは失敗だった。
SNSを使えば使うほど、感情を抑制して言葉遣いを選ぶことは負荷がかかった。
そして何より、その労力は対して尊重されない。
そうやって心を削りながら作った言葉は結局、批判されるべき状況が出来た時に無力だ。
一年近くアカウントを運用し、ある時点で理解したのは。
これまで自分のやってきた立ち振る舞いは、何食わぬ顔で加害者側に立って一緒に被害者を踏みつけるようなものであった、という事実だった。
忘れはしない。
自分が信用していた人間のベールが剥げ落ちて、そこに差別主義者が立ち並んでいたあの日のこと。
自分の今まで出力してきた言葉の多くが、それらを無責任に肯定する悪性のものであったこと。
忘れるな。
加害者なのだ、僕は。
今までも、これからも。
♢ ♢ ♢
引越しを終えてからというもの、僕は現実に適応することと自分が透明にしていたものを知ることに残り少ないリソースを割いていた。
自分が加害者と知るのは、被害者側からすれば身勝手な話ではあるが傷付く。
認めたくなくなり、全部に蓋をして無かったことにしたくなる。
その、退路が常に存在することこそが特権であると漸く理解した。
故に、意地で傷付き続けた。
そうでなくては、踏み付けている足を退けることは叶わない。
楽しかったか、と問われれば別に楽しいことではなかったと思う。
ただ、息はしやすかった。
今まで何となく違和感を感じながら目を逸らしていたことに向き合っているということ。
それらの違和感を説明する言葉に触れること。
全く考えてもいなかった思想に触れて価値観が更新されること。
それらは、心のどこかで求めていたことで。
ずっと支えていた何かが外れる瞬間で。
そういう意味では、楽しかったとも言えるのかもしれない。
♢ ♢ ♢
誰にも言っていなかったけど、僕は去年のこの日にある声優のファンであることを辞めた。
一応言っておくと、道が致命的にズレたと思ったからであって嫌いになった訳ではない。
今でも遠くから応援はしている。
Aqours Clubの更新は行わなかった。
これも、先程と同じ理由であって嫌いなった訳ではない。
ただ、僕がもう「みんな」ではなく、だからといって「あなた」でもないことは確かだ。
僕は、アニメ版のラブライブサンシャインに影響を受けて人生の軌道修正をした。
アニメの文脈に沿った5thライブを終えたあの日、僕のラブライブはもう、終わっていたのだ。
♢ ♢ ♢
時間がないので、この辺にする。
来年の僕、色々な事を投げっぱなしにしてすまない。
不出来な2020年担当から、ひとつだけアドバイスだ。
安易な救いを求めるな。
苦痛と怒りを信用し、決して方位磁針の指す道から逸れるな。
No.10という呪いを抱えたまま、その地獄を歩め。
健闘を祈る。