月の裏側

行き場を無くした思考の末路

綴る妄言境界越えて

こんばんは、月見です。

ご存知の方もいるかも知れませんが、当方ほんの少しですが小説なんぞを書いておりまして。

ええ、下手の横好きで物書きの真似事をさせて頂いております。

 

前回の記事で僕は、当分の間自分の行動指針を『物語を貪り、形を与える事』に決めました。

まあ大仰に書いていますが、要するに『触れたいと思った作品に片っ端から触れ、書きたいと思っていた話をできるだけアウトプットする』という事ですね。

 

そこで、ふと思い立ちました。

折角ならこれまでに書いた3つの小説の振り返りをここにまとめてしまおうと。

 

わざわざ記事としてこれを公開する理由はただ1つ。

ブログは読むよ、という方に読んでもらうためです。

 

小説というのは消化するにあたってそこそこ腰の重い媒体であると僕は考えています。

それなりの長さの文章を想像力を働かせながら読み続ける必要がありますから。

ですので、僕はこの記事に過去3作の要約した内容をオチまで書いてしまおうと思います。
リンクは貼っておきますが別に踏まなくても大体読んだに等しい感じになれます。

小説を読む気にはなれないし時間もないや、という方にもちょっとは知ってもらう為の足掻きですね。

 

本当はこれから書く予定の物語の案を書き出して逃げ道を塞いだりしたかったのですが、自由を愛しているのでやめました。何言ってんだ?

では、お時間ある方はお付き合いください。

万に一つ、リンクを踏んで本編を読んで頂けたりしたらそれは望外の喜びといったところであります。

 

 

 

 

 

 

📙

 

『白いツツジは未だ咲かない』

https://syosetu.org/novel/177891/

 

主題:「卒業ですね」と国木田花丸

時間設定はアニメ2期12話と13話の間あたり。

決勝を終えたAqoursが閉校式までの間にユニットでの卒業ソング(サクラバイバイ、卒業ですね、Guilty!? Farewell party)の制作を行なっていたという仮定のもとで展開。

「『卒業ですね』は国木田花丸による作詞である」という僕の見解を形にしたもの。

また、話の下地として極めて個人的なAZALEA観(年齢の割に達観している花丸が年相応の幼さを出せる場所になっており、果南とダイヤは姉のようであったり親のようであったりする家族のような関係性)が根底にあります。

 

 

 

千歌からユニットで卒業ソングを作ろう、という話を持ちかけられた花丸は、早速果南とダイヤを呼んで卒業ソングの制作に取り掛かる。

卒業というテーマは、恋の歌と相性が良い。

いつも通りAZALEAらしい恋の歌を、という方向でとんとん拍子に話がまとまろうとする中、花丸は胸の奥に引っかかるものを感じて一度1人で考えたいと提案、千歌の元へと相談に向かう。

 

運よく部室に1人で居残っていた千歌に、花丸は複雑な胸中を吐露した。

花丸の葛藤ーーそれは、2つの相反する自分の衝突によるものだった。即ち、「活動の集大成として全力の恋の歌を書きたいAZALEAの作詞担当としての自分」と「姉のように、時には親のように面倒を見てくれた先輩2人への感謝の歌を書きたい1年生としての自分」の2つである。

悩む花丸に、千歌は「P.S.の向こう側」という曲にまつわるエピソードを話す。

曰く、人によって感じ方がバラバラだったという。友人との別離を思った人もいれば失恋を想起した人も、或いは最近連絡を取っていなかった祖父を思い出して手紙を書いたという人もいたと言う。

そして千歌は、これを「すごく素敵なこと」だと述べた。

歌詞の内包する意味合いとは、決して1つだけではないのだと。様々な受け取り方があって、何通りもの世界が歌詞の中に潜んでいるのだと。

そして、こう宣うのだ。

 

「どっちもやっちゃおうよ、花丸ちゃん!」

「それだけ悩んでるってことは、花丸ちゃんにとってはどっちも同じくらい大切な想いなんだよ! だったら、欲張ってどっちもやるべきだよ!」

「さっき、思いもよらない受け取り方をする人たちがいたって言ったでしょ? それってつまり、一つの歌詞が色んな意味を持ってるからだと思うんだ。

 だから、花丸ちゃんのやりたい恋の歌に2人への感謝の気持ちも詰め込んじゃえば良いんだよ! そうすれば、きっと素敵な曲になるよ!」

 

しかし、その言葉に従うなら、1つの歌詞で恋愛感情と感謝の気持ちの両立を図るということになる。

 

「出来るよ、絶対出来る!」

「……何で、そんな風に言い切れるずら?」

 

不安がる花丸に向けて、しかし屈託無く千歌は言う。陽だまりのような満開の笑顔で。

 

「え? だってーー」

 

 

 

『ーー私の大好きな、花丸ちゃんだもん!』

 

何1つ論理的根拠のない、でも、だからこそ強く胸を打ち背を押す言葉。

帰りがけに出くわした善子と他愛もない話をしながら花丸は、密かに決意を固めた。

この感情に、卒業という事実に向き合うってーー最高の曲にしてみせる、と。

 

春の気配を孕んだ風を感じながら、花丸は境内で瞑想を始める。

思考のノイズを長く深い呼気と共に押し流して心を透明にしてーー透き通った思考の底で、一瞬の閃きが訪れる。

少し前にした会話。

相談に乗ってくれた先輩と、他愛もない話で笑わせてくれた友人の言葉。

 

『ーー1つの歌詞に、どっちの想いも詰め込むんだよ!』

『ーーありとあらゆる並行世界の因果律を束ねる、このヨハネ様の魔力でーー』

 

(ーー束ねる、1つの詞に、)

 

 

 

ーーーー”切なさ"を。

 

大好きだった恋愛小説をベースにした、卒業で分け隔てられてしまう2人の悲恋を描いた歌。

自身の感情をそのままベースにした、卒業していく2人への感謝と寂しさを伝える歌。

それら2つには、共通する”切なさ”があった。

ならば、その”切なさ”で両者を束ねればいい。

 

鐘の音が鳴る。

頓悟と呼ぶに相応しい急激な閃きを得た花丸は急いで自室へ戻り、その日の内に歌詞を書き上げてしまう。

メッセージアプリで果南とダイヤに完成を知らせた花丸は、披露したいから2日後に屋上に集合したい、と提案した。

 

2日後、浦の星女学院屋上。

教室から運んできた机を傍らに、花丸は果南とダイヤが来るのを待っていた。

そう、花丸はこの歌の独唱を真っ先に2人に聴かせるつもりでいたのだ。

自分の感謝や寂しさ、そして切なさーー諸々の感情を真っ先に2人に届けて、それをプレゼントとするつもりだった。

間も無く2人は屋上に到着し、花丸は勢いよく机へと飛び乗る。

 

準備は整った。

観客は2人。

晴れ渡った屋上の風景を背にして私は歌う。

 

有り難いって、思ってね。2人とも。

私が独唱を聴かせるなんて、滅多にないんだから。 

 

独唱をしながら、花丸は歌詞の一つ一つに込めた想いを反芻していた。

蘇って来る感情に涙が溢れるも、歌うことは止めずにーー彼女は遂に、全てを歌い切る。

 

「今、まで、……っ」

 涙を抑えきれずに声が震える。

 それでも、それでも言い切らなくてはいけなかった。

 これを、言い切るためにここまでしたのだから。

 

「ーー今まで、ありがとうございましたっ!!」

 

最後に感謝の言葉を直接言い切った花丸は、脱力感とともに涙を流す。

それは、歌い上げた花丸の姿に胸を打たれた果南とダイヤも同様で、3人は暫く屋上で泣き腫らすのだった。

 

その日の夜、果南とダイヤから感謝の気持ちとしてプレゼントされたぬいぐるみを抱きしめつつ、花丸は回想に浸る。

振り返れば寂しさは湧いて来るけれど、彼女はもう別れの悲しみを恐れない。

喜びも悲しみも、全てまとめて抱きしめると決めたから。

それをいつか、そっと眺めるという楽しみができたから。

 

花丸は、ずっと嫌だった迫り来る4月の敷居が少し楽しみになっていた。

見れば、部屋の一角にはその4月に咲くツツジの花ーーAZALEAのシンボルでもある、白い西洋ツツジが飾ってある。

 

白く清楚なアザレアの花。その花言葉はーー

 

 

 

 

 

📘

 

 

『透花散春』

https://syosetu.org/novel/178861/

 

主題:黒澤ダイヤから見た松浦果南という人間

『白いツツジは未だ咲かない』の途中で果南とダイヤがわちゃわちゃするシーンからイメージを展開し始めたら思いの外シリアス寄りの話に。

時間設定は断片的に移り変わります。劇場版公開前に書いたものなので、ちょっと今見ると違和感があるかもしれません。

ダイヤさんにとって、果南ちゃんはどこかヒーローじみた人に見えていたのではないか、という僕のイメージを形にしたもの。

書いていて僕は思っていたよりこの2人の雰囲気が好きなんだと思いました。ダイヤさん視点で物語るのが中々どうして楽しかったです。

3年生組が1年生だった頃の関係性や心理描写は殆ど自分で想像したものなので、その道に詳しい方からすると解釈違いが激しいかも知れません。ごめんね。

 

 

東京のイベントで敢えて果南が歌わず、そのままグループの解散となってしまった直後のある土曜日。

1年生のダイヤは、生徒会室で1人沈み込んでいた。

ようやく始められた憧れのスクールアイドル活動は、呆気なく終わりを迎えてしまった。

果南と鞠莉の間で板挟みになって、最終的にやめる方を選んで、その結果生まれた苛立ちをよりによって妹にぶつけてしまった。

無念と絶望、そして自己嫌悪に苛まれるダイヤは、その昔手帳の内ポケットに収納したとあるスクールアイドルのブロマイドを発見してしまう。

 

憧れの人だったその人の姿が眩しくて、目に痛くて。

ダイヤはそのブロマイドから手を離し、ゴミ箱へ廃棄しようとする。

それは、精神的な自傷行為だった。

当然、こんなことをしても何の解決にもならないし、ただ後悔するだけと彼女は理解している。

しかし、無慈悲な現実に打ちのめされた彼女には、もはや自分を止める術はなく。

 

ひらり、ひらりと大切な宝物が落ちていく様をぼんやりと眺めていた、その時。

 

「ーーーーダイヤ!!」

 乱暴に扉を開く音。

 大股でこちらに近付く足音。

 それらを聴覚が捉えたその直後。

 

 見覚えのある、しなやかな白い指が私の心を繋ぎとめた。

 

ルビィから事情を聴きだしたらしい果南は、心配半分怒り半分でダイヤに詰問する。

しかし、沈痛な面持ちで「大丈夫」を繰り返すダイヤの様子を見て自分がダイヤにどんな仕打ちをしてしまったか痛感し、果南は改めて正面からダイヤに謝罪をした。

ダイヤは優等生の自分として当たり障りのない受け答えをする。

そうでもしないと、抑圧した感情が溢れてしまいそうだから。

 

でも。

 

「私、鞠莉のことで頭がいっぱいだった。なるべく早く、今の内に鞠莉をここから解放しなきゃって、そればっかりで」

 深い色の瞳が私を捉える。

 まっすぐに心の底を見つめるその瞳に、視線が引き寄せられて動かせない。

「だから、って言ったら言い訳になるけど、ダイヤの気持ち、考えてなかった。ダイヤだったら分かってくれるし協力してくれるって信じ切ってて、それでダイヤがどう感じるか全然考えてなかった」

 

そんな抑圧で固めた心に、果南の言葉はゆっくりと浸透していく。

ダイヤが心の底で欲していた言葉が告げられていく。

抑圧が徐々に解けていき、激情がせり上がってくるのを感じる。

再び深々と頭を下げる果南に、優等生の自分ではなく奥底に抑圧していた感情でダイヤは告げた。

 

「ーー今更、今更何だというのです!!」

 行き場を失い続けた感情が、ようやく出口を見つけて殺到する。無念も、怒りも、苛立ちも、全て。

「私はスクールアイドルになりたくて、ずっと憧れていて、高校生になったら必ずなると誓っていましたわ! ただやるのではなく、あなた達2人と一緒に、全力で優勝を狙うような熱い活動をしようと!」

 

一度堰を切ってしまえばもう止まらない。

激情が言葉という形を成して果南へと殺到する。

やがて激しい怒りは自身への惨めさへと変わり、ダイヤは堪え切れず嗚咽を漏らす。

そんなダイヤを見た果南はこう告げる。

 

「ーーうん。だから、さ」

 

 頭上から、優しい声が降ってくる。

 ゆっくりと顔を上げれば、視界に入るのはこちらに伸びた2本の腕。

 辛そうな、悲しそうな、優しい微笑み。

 

「ーーもう少し、謝らせて」

 

 

思い返して見れば久々のハグに、ダイヤはゆっくりと心が落ち着いていくのを感じながら暫く泣いた。

 

ひとしきり感情が落ち着いた後、果南はブロマイドを「預かっておく」と言う。

曰く、「ダイヤは浮き沈みが激しいからまだ心配」だという。

「これを捨てなさそうなダイヤになったら、返してあげる!」と曖昧極まる基準を掲示する果南に苦笑しつつ、ダイヤは隣を歩く友人へ強い感謝を感じるのだった。

 

 

そんな過去を回想していたダイヤは、今現在盛大にヘソを曲げつつ自分をハグで拘束する果南に呆れた視線を流す。

記憶の中で英雄然としていた彼女の面影は薄く、その頑なさは子供のよう。

意地を張りすぎて引き際を失ったな、と察したダイヤは適当な理由でお茶に誘い拘束を解くのだった。

通い慣れた喫茶店で世間話に花を咲かせる。

話の流れで、卒業前に花丸に向けてAZALEAとして何かプレゼントをすることを決めた2人は、取り急ぎ淡島へ向かうことにしたのだった。

花丸が、その日の晩に歌詞を完成させてくるとは想像もせず。

 

 

果南は空港、ダイヤは東京へと向かう電車の中、2人はプレゼントを受け渡した日のことを話していた。

「卒業ですね」という曲をプレゼントとして用意し、独唱を披露した後輩の姿を思い浮かべる。

ふと、卒業してしまったという事実が胸を刺す。

ポツリポツリと過去を振り返りながら、ダイヤは胸に去来する感傷を味わっていた。

 

駅に着く。

いつものような会話をしながら、最後に別れのハグをして。

改札の向こうへと消えていく親友を見守ったダイヤは、踵を返して自分の道へと向かった。

 

東京行きの電車に乗り換えたダイヤは、先程のやり取りの中で果南から渡された”こないだのケーキ代”が入っている封筒を取り出す。

妙なところで律儀なんですから、と思いながら取り出したその封筒に、ダイヤは違和感を感じた。

予感を感じながら封筒を開く。

 

入っていたのは、あの日のブロマイドと手紙だった。

手短にこれまでの感謝を告げるその手紙を見て、ダイヤはそっと涙を流した。

押し寄せる記憶と感傷に嗚咽の一つすら追いつかず、透明な花弁が春に散る。

 

鮮やかな青を誇る春の空に、彼女の愛した海を想起しながら。

彼女を乗せた列車は東京へと進むのだったーー

 

 

 

 

 

📕

 

 

ピジョン・ブラッドの煌めき』

https://syosetu.org/novel/202593/

 

主題:黒澤ルビィの熱に触れる桜内梨子

時間設定は1期と2期の間の夏休み。

この期間にBD特典曲(P.S.の向こう側、Lonely Tuning、Guilty Eyes Fever)が制作されたという仮定で展開。

少し前から考えていた、梨子ちゃんとルビィちゃんの話。

本編ではほぼ絡みのない2人ですが、僕はこういう殆ど公式からの供給がない2人を見るとつい想像を巡らせたくなってしまう傾向にあります。

最初は想像が出来ませんでしたが、一度きっかけがつかめればむしろ湧いてくるようでした。

特有の姉妹感があり、またお互いに抜けてる所としっかりしている所が違う印象があるため、互いを補い合える合える良いペアだと思います。

定期的に2人で東京遠征してスクールアイドルのライブに参加した後喫茶店でライブの感想含む雑談に花を咲かせていて欲しいという強い気持ち。

因みにピジョンブラッドというのは、その名の通り鳩の血のような透き通った深い赤が特徴的な最高級品のルビーのことです。

 

 

地区大会を終え、一度ユニット練習を増やして個性を伸ばす方針になったAqours

Guilty Kiss会議にて「もっとギルティな新曲が必要」と相変わらずのハイテンションで告げる鞠莉と、それに賛同する善子。

頭を抱えつつも結局押し切られた梨子は、EDMの新曲を制作することになってしまう。

 

鞠莉の協力を得つつ試行錯誤をしているものの、中々イメージを掴めず試行錯誤していたある日。

久々の9人練習ということで部室に向かった梨子は、珍しく正面衝突をしている黒澤姉妹の姿を目にする。

近くにいた曜から事情を聞けば、東京でスクールアイドルのーーそれもμ’sのグッズを取り扱うイベントが開催されるらしい。

しかし、ダイヤはその日に家の用事が入ってしまっており、付き添うことができない。

結果として、1人で東京へ行くのは危ないからダメ、というダイヤとどうしてもイベントに参加したいルビィが衝突したようだった。

 

同じ末っ子として思う所があるのか、千歌はルビィを擁護する。

しかし、毅然とした態度で突っぱねるダイヤの姿勢に取り付く島もない。

言葉の応酬の果てに、ルビィは「ルビィばっかりワガママ言っちゃダメだもんね」と諦観する。

そのルビィの表情を見た梨子は、そこに過去の自分を重ねた。

楽器のために沢山努力を積んだ日々。

その過程で、同年代の女子が経験している種々の「楽しそうなこと」を梨子は我慢し続けていた。

楽器には近道などないから。ピアノを弾くのが大好きだから。もっと上手くなりたいから。

 

 でも。

 あの日の私は、どんな顔をしていただろう。

 あの日、無邪気に映画に誘う友人に「ごめんね」と言った帰り道の私は。

 きっと俯いて、どこか悔しそうな表情を浮かべていたと思う。

 それこそ、今のルビィちゃんみたいに。

 

 

ピアノで挫折をして、スクールアイドルを始めて。

梨子の考え方は少し変わっていた。

具体的に言うなら、ここでルビィをイベントに行かせてあげるべきだと考えるようになっていた。

手帳を見れば、丁度そのイベントの前日に東京の友達と会う約束が入っている。

手早く友人にメッセージを送った後、梨子はダイヤに話しかけた。

 

「いえ、そうじゃなくてーーその、私じゃダメですか? ルビィちゃんの付き添い」 

 

 

結果として説得は成功した。

練習の後に生徒会の仕事を手伝った梨子は、ダイヤから直接礼を言われる。

行かせてあげたい気持ちと妹が心配な気持ちでせめぎ合っていたダイヤにとっても、梨子の提案はありがたかったのだ。

バスはもう終わっていますから、というダイヤの言葉に甘えて、梨子は家まで黒澤家の車で送ってもらう事となった。

 

その日の夜、急な予定変更に合わせてくれた友人へメッセージアプリでお礼と謝罪をしている梨子の元に、ルビィからのメッセージが入ってきた。

改めてやり取りをする中で、少しだけあった2人きりで行動することへの不安が氷解していくのを感じ、梨子は眠りにつく。

 

 思い返す。

 

 怯えながらもAqoursに興味を持ってくれていたこと。

 仮入部を決め、屋上で晴れやかな表情で踊る姿。

 淡島神社の階段を登りきり、自信の欠片を宿した瞳。

 ダイヤさんに向き合って、自分の気持ちを伝えたときの背中。

 

 そうだ、私は。

 彼女のそんなところが少し、ううん、大いにーー

 

 

東京行きの朝、早朝に沼津駅に集合する2人。

珍しくポニーテールにしてしっかりとおめかしをして来たルビィを褒めたり、ユニット活動の近況を話したり。

雑談に花を咲かせつつ無事に東京に着いた2人は、一度秋葉原駅で解散する。

思った以上にたくさん喋れて清々しい気持ちになった梨子は、足取りも軽く友人の元へ向かった。

 

久々に会う友人は、梨子の顔を見て元気そうになって良かった、と零した。

聞けば、東京を出る前の梨子の顔は死人のような様だったようで、大層心配を掛けていたようだ。

友人にせがまれるままに、Aqoursの話や内浦の話など、引っ越してからこれまでに起きた出来事を話す。

一通りの話を聞いた友人は、梨子が新しい世界に踏み込めたことを改めて祝福した。

 

「梨子はさ、梨子のことを曇らせるようなヤツのいない、新しい世界に飛び移れたんだよ。その証拠に、今の梨子はめっちゃいい顔してる! 死んでないし、楽しそう! やったじゃん、引越し大成功だよ!」

 朗らかに笑いかけながらそう語る友人に、目頭が熱くなる。

 自分の事情で塞ぎ込んで、暗い空気を放ったまま逃げるように東京を出た。そんな私を、彼女はずっと気にしてくれていたのだ。私が思っていたよりも、ずっと。

 

 

東京にも変わらず居場所があることを嬉しく感じていると友人の電話が鳴る。

不運にも急な用事が入ってしまい、早めの解散となってしまったことを謝罪する友人に私こそ急に予定をずらしてごめんね、と謝り返す梨子。

今度埋め合わせをすると言いつつ、別れ際に友人は「快気祝い」としてプレゼントを渡してきた。

箱の中に佇む綺麗なバレッタを眺めつつ、梨子は滲む涙を拭うのだった。

 

昼食を済ませた梨子は、そのままイベント会場へと向かった。

実は、ダイヤから「もし時間に余裕があったら」と買い物を頼まれていたのだ。

会場内で流れるμ’sのPVを眺めつつ、梨子はふと音ノ木坂のことを考える。

もし、あのまま音ノ木坂でピアノを続けることが出来ていたら、その自分は幸せだったろうか、と。

内浦での生活が充実すればするほど少しだけ感じる、寂しさとも切なさともつかない感情。

その感情の正体に考えを巡らせた辺りでレジで待つ店員から呼ばれてしまい、思考を中断した。

 

買い物を終えて用事の済んだ梨子は、ルビィにメッセージを送って合流を図る。

しかし、メッセージを送る前に近くでルビィの声が聞こえた。

声の方向を向けば、そこには同じ趣味を持っている振りをして声をかけてファミレス等に誘い込むタイプの宗教勧誘に迫られているルビィの姿。

靴音を鳴らしてそこ向かい、強い語気で拒絶の意志を示しつつルビィを連れてその場から離脱する梨子。

怪しい人に声をかけられた恐怖故かすっかり沈んだ面持ちになってしまったルビィを見た梨子は、その手を引いて再び会場へと向かった。

楽しい気持ちで上書きしてあげたい、という一心で。

彼女が欲しかったであろうグッズもいくつか奮発して買ってあげよう、などと画策しながら。

 

一度人混みから離れるべく汐留まで移動した2人は、荷物を整理したり会場で買ったグッズを開封したりして新幹線の時間を待っていた。

無事に推しである小泉花陽のストラップを引き当て歓喜するルビィの姿に、頰が緩む梨子。

引き当てたことが嬉しかったのだろう。

嬉しそうに、楽しそうに、そしてどこか誇らしげに自分の好きなμ’sのことを語るルビィの笑顔が、差し込んだ夕日に照らされる。

 

その笑顔を眩しく感じたからか、あるいは夕日が運んできた感傷故か。

梨子の口から、心の内に燻っていた感情が零れ落ちていく。

一度好きだったピアノから逃げたこと。

Aqoursみんなのおかげで好きの気持ちを取り戻せたこと。

音ノ木坂や東京のことをまた好きになれた今、余計に捨ててしまった事実に未練を感じていること。

逃げてしまった自分を、許し切れていないこと。

 

「だからね、私はルビィちゃんが羨ましいし、凄いなって思う。ちゃんと自分の好きなものを好きで居続けて、迷いなく好きだって言えるルビィちゃんが」

 初めて見たときは、小柄で弱々しい印象だった。

 でも、人見知りなのに先輩である私達と関わったり、姉であるダイヤさんに勇気を出して自分の気持ちを伝えたり。好きなものの為に勇気を出して壁を乗り越えていく姿は、弱さとはかけ離れていて。

 白状するなら、私はその強さが羨ましかった。

 迷っても、恐れても、最終的にちゃんと自分の力で壁を破るその強さが、私には。

 

 

おずおずと、しかししっかりと反証するルビィに梨子は微笑む。

話せば話すほど、小さくはない差がそこにあるように感じていた。

再起の時を待ち続けていたルビィと、一度何もかもを捨てて逃げてしまった自分。

心の隅で未だ叫び続ける未練が離れない。

それが、ほんの少し辛かった。

騒ぎ立てるほど辛くはない、でも終わりがない苦痛。

 

「私は結局、心配してくれていた東京の友達とか、期待してくれてた学校の人達とかーーあの時ピアノのことで頭がいっぱいになっていて気付けなかった色々なものを捨てて逃げた、卑怯で弱い人間なんじゃないか、ってーー」

  

それは、自虐となって口から溢れ出す。
そんな梨子に、ルビィは思わず声をあげた。 

 

「ーーそんなことないっ!!」

 思わず目を見張る。

 今まで聞いたことのないような、芯の通った強い声が私を貫く。

 声の主であるルビィちゃんを見ると、その目は涙で潤んでいてーーどこか、怒っているように見えた。

「そんなことーーそんなこと言っちゃダメだよ、梨子ちゃん!」

 翠の瞳が私を見つめる。

 沢山の感情が燃え盛るその瞳の美しさに、気圧されて身動きが取れなかった。

 

 

芯の通った声が淀みゆく空気を破る。

普段の姿からは想像も出来ない力強さで彼女は梨子の自虐を否定してく。

燃え盛る一対のエメラルドから目を反らせないまま、梨子は自分の心が暖かな炎に包まれるのを感じていた。

ルビィの声が炎に見える。触れたものを灰に還す業火ではなく、凍える身体を温め命を灯す生命の炎に。

 

 羨ましいと思っていた。その真っ直ぐさが、その強さが。

 でも、本当は違ったのかもしれない。そういう感情じゃなくて、ただ、こうして気持ちをぶつけてみたかっただけなのかもしれない。

 この紅く透き通った熱に、心の何処かがずっと触れたがっていたのかもしれない。

「それにね、梨子ちゃん。ルビィ、たくさんスクールアイドルの曲聴いてるから分かるの。もし本当に梨子ちゃんが卑怯で弱い人だったらーーあんなにキラキラした素敵な曲、作れないよ。たくさん悩んで戦ってきた梨子ちゃんだから、あんなに素敵な曲が作れるんだよ。ルビィ、これだけは自信を持って言い切れる!」

 最初は怒りを湛えていた表情はいつしか、溌剌とした愛らしい笑顔に戻っていた。

 ああもう、完敗だ。確かに、スクールアイドルの曲に関して考えればルビィちゃん以上に信用できる評価者なんていなかった。

「だから、梨子ちゃん。ここまで一生懸命戦ってた自分のこと、ちゃんと褒めてあげて……?」

 

 

心の隅に巣食っていた影が消えていく。

魂まで暖め蘇生させる生命の炎が、声を、視線を通じて梨子の心に届いたのだ。

頬を伝う涙をそのままに、梨子はルビィを抱きしめる。

深い感謝を込めて自分よりも背の低い彼女を抱擁した梨子の視線が、結った髪の根元に吸い寄せられる。

 

その髪を結っていたのは、”あの”シュシュだった。

 

 

後日、珍しく梨子からの招集でGuilty Kissが集合する。

曲が完成した、と自信に満ちた顔で告げる梨子に驚く2人。

東京からの帰り道、ルビィからBiBiというμ’sのグループ内ユニットの存在を教えてもらった梨子は、彼女達の曲をヒントに誰もが一瞬で高揚してしまうような曲のイメージを掴んでいたのだ。

聴くもの全てを高揚させる電子音と、罪深い恋の瞳を掲げたGuilty Kissのイメージ。

その2つを”熱狂”という言葉で括ることで出た解答。

 

その曲のタイトルはーー

 

 

 

 

 

📚

 

 

あとがき

 

以上3作品、お楽しみ頂けたでしょうか。

かなり僕個人の解釈を反映させたものが多いため解釈違いも多々あると思いますが、一つでも興味を引くものがあったなら幸いです。

僕にとっても良い振り返りの機会となりました。

改めて読んでみると、拙くて読んでて恥ずかしくなる部分もあれば自分の書いた文章なのに胸を打たれてしまう部分があったりもして。

僕にとっては、ブログ以上に小説いうのは制作が困難な代物であり、いつも書き終わる頃にはボロボロに疲れ果てています。

 

多分それは、僕が逐一主題としている人物に出来る限りの感情移入をしているからでしょう。

憤怒も悲哀も、歓喜も喜悦も。

ちゃんと本人が言いそうかどうか擦り合わせつつ自分の感情も同期して書くと、本当に疲れます。

でも、そうやって書き上げる工程はやっぱり、とても楽しいので。

これからも物書きの真似事を。

自分という領域の境界線を越えて、思考を綴る苦しくも楽しい作業を、細々と続けていこうと思います。

 

今着手しているのは、曜ちゃんが善子ちゃんに感じている感謝の話と、千歌ちゃんの夢にあの世へ行く寸前の浦の星女学院が挨拶にくる話です。

その後は、梨子ちゃんが鞠莉ちゃんにホテルでの演奏会を頼まれる話とか東京の出版社に就職した花丸ちゃんが訳あって長野に住む再従弟くんに心動かされる話とかピアノに情熱を燃やすあまり魔女の薬に手を出してしまい二度とピアノ奏者として純粋な音を届けられなくなってしまった元令嬢の魔女リリーが捨て子の男の子を拾ってしまう話とか書きたいかなと。

 

ええ、言うだけ自由ですからね!

 

さて、今回はこの辺りで筆を置かせていただきます。

お付き合い頂いた方、ありがとうございました。

 

 

 

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